ご予約希望の病院をお選びください。
2021.08.06
ペットの病気
こんにちは。動物メディカルセンターの獣医師の盛岡です。
今回は目のキズに関するお話です。目の表面の透明な膜を「角膜」といいます。
コンタクトレンズをのせるところですね。角膜は透明ですが、拡大して観察すると実はいくつもの層からなる構造でできています。
ワンちゃんやネコちゃんはケンカをしたときや目に物をぶつけてしまったときに、よく角膜のキズをつくってしまいます。この角膜のキズを「角膜潰瘍」といい、角膜の層構造がえぐれてしまった状態になります。
角膜にキズができると、角膜の細胞の働きによって表面の薄い膜(上皮)が伸びてキズを覆ってくれます。小さく浅い傷であれば通常は3日~1週間ほどキレイに治してくれます。しかし、大きなキズや深いキズは大ケガになるため治りにくく、場合によっては手術が必要になることもあります。また、治ったとしても傷跡が残ってしまうこともあります。
今回ご紹介させていただくのは角膜のキズがなかなか治らなかったネコちゃんです。
目をショボショボしているとのことで来院されました。そこで角膜のキズを調べるフルオレセイン染色検査を行いました。
フルオレセインは青い光を当てると蛍光色に光る特殊な蛍光色の染色液で、角膜のキズがある場所に染色液が付着する性質を利用して検査を行います。
すると左目の外側に小さく染色液が付着し、角膜にキズができているのが分かります。
小さく浅いキズでしたので、お家では目をこすってキズを大きくしてしまわないようにエリザベスカラーをしてもらいながらしっかりと目薬の治療をを差していただいて様子を見ることになりました。
しかし、目のキズはいったん小さくなったのですが、数日後にはまた大きなキズになってしまいました。
その後も、さまざまな目薬を使いましたがなかなか完治しませんでした。
ところがある日、目の検査をした際に気付きました。染色液が角膜の中にも入り込んでいます。
これはSCCEDs(スケッズ:自発性慢性角膜上皮欠損)をいう病気です。
角膜の基底膜と呼ばれる構造に異常があり、角膜の表面を覆う薄い膜(上皮)がうまく角膜自体にくっついてくれない病気です。原因は、角膜上皮を構成する角膜基底膜細胞において作られている接着因子の異常によって起こります。
この病気の特徴は
1.角膜のキズが浅いこと
2.一般的な治療や管理をしてもなかなか治らず、繰り返してキズができること
です。
この病気にかかると、角膜の上皮は再生してキズを覆うようにしようとしているのですが、簡単に剝がれてしまうため、キズが大きくなったり小さくなったりを繰り返し治らなくなってしまうのです。
ワンちゃんで稀になってしまう病気ですが、ネコちゃんでは更に珍しい病気です。
この病気は、目薬だけでは治りません。治療は病気の原因である基底膜の治療が必要になります。このネコちゃんは、くっついていない薄い膜を剥がして角膜の基底膜に対する処置を行いました。
角膜のキズは実はかなり広い範囲で隠れていました。
目薬を続けていただき2週間後に見たところ……
無事にキレイに治ってくれました!
処置を行ったとしてもなかなか治らないこともあるのですが、1回の処置で治ってくれて良かったです。なにより、目薬とエリザベスカラーの生活を一か月頑張ってくれたネコちゃんと飼い主様は本当に大変だったと思います。無事に治って僕も飼い主様もほっとしました。
目の傷は小さくても、それによる痛みや違和感によって目をこすってしまう事で傷が大きくなって悪化してしまうことがあります。目をショボショボしているのに気が付いたら早めに受診をおすすめします。